変形性股関節症 【プロ編】
[概念]
変形性股関節症とは
股関節構成体の進行性の
退行性変化が主病変であり,
関節を構成する軟骨の変性と
ともに関節軟骨周辺部の増殖性変化を
伴う関節病変である。
[原因と分類]
変形性股関節症は,
股関節の構造に欠陥がなく,
また特別な原因疾患を伴わない
一次性変形性股関節症と,
股関節の構造異常もしくは
何らかの原因疾患に伴う
二次性変形性股関節症とに分類される。
一次性変形性股関節症は,
個体素因も関与して一般には
初老期以後に発症する。
また,二次性変形性股関節症は,
以下に示す原疾患に続発する。
(1)股関節形成不全
(先天性股関節脱臼,臼蓋形成不全など)
(2)炎症
(化膿性股関節炎,結核性股関節炎,
慢性関節.リウマチなど)
(3)外傷
(股関節脱臼骨折,大腿骨骨頭骨折など)
(4)骨壊死
(大腿骨頭壊死, Perthes 病,
大腿骨頚部骨折など)
(5)内分泌疾患
(末端肥大症,甲状腺機能低下症,
くる病など)
(6)骨系統疾患
(多発性骨端異形成症など)
これまで本邦では一次性の股関節症は稀で,
二次性の股関節症,
特に先天性股関節脱臼や
臼蓋形成不全に由来するものが
70~80%を占めるとされてきたが,
最近では、生活様式の変化などから
一次性のものが増加しているようである。
また逆に,欧米ではこれまで一次性の
股関節症が多いとされてきたが,
ごく軽度の構造異常を伴う
大腿骨頭すべり症やPerthes 病,
臼蓋形成不全などに由来する
例が多いようで,原疾患を伴わない
一次性の股関節症は,
それほど多いものではないとの報告もある。
[臨床症状]
主症状は,股関節の疼痛,可動域制限
および破行である。
疼痛は必ずしも股関節部に限局せず,
大腿部痛,腰痛,膝部痛を主訴とする
ことがあるので注意が必要である。
疼痛・可動域制限が増大することにより,
日常生活動作に支障を来す。
[X線所見]
関節裂隙の不整狭小化,軟骨下骨梁の骨硬化,
骨棘形成,骨嚢包の形成,骨頭変形
(扁平化,capital drop の形成)がみられる。
先天性股関節脱臼,臼蓋形成不全などの
股関節形成不全由来の変形性股関節症は,
X線所見により一般にその病期を以下の
4段階に分類することができる。
(1)前股関節症
臼蓋形成不全,骨性臼蓋からの骨頭の
はみ出しを認めるが,この時期では
関節裂隙は正常に保たれ,荷重部の
骨硬化像,骨嚢包形成などの関節症性変化は
認めない。
しかし,股関節には X 線上には出現しない
程度の変化がすでに存在すると考えられ,
疼痛 認めることは稀ではない。
(2)初期股関節症
関節裂隙のわずかな狭小化,荷重部の
骨硬化像を認める。
骨頭の外方化がすでに存在する場合がある。
(3)進行期股関節症
荷重部の骨硬化, 骨嚢包の形成,
関節裂隙の狭小化,骨頭周辺
・臼蓋底部の骨棘形成を認める。
骨頭の外方化が存在する。
(4)末期股関節症
関節裂隙の消失,荷重部の骨硬化,
骨嚢包の形成などの
関節症性変化の進行を認める。
骨頭内下方の骨性増殖による
骨頭変形,骨頭の外方移動,
二重臼底像を認め,関節の適合性は消失する。
[診断のポイント]
症状およびX線所見より断は容易である。
二次性の股間症の場合は、
乳幼児期に先天性股関節の
治療を受けたか否か、
さらに原疾患の既往など
を調べておく。
ただし末期股関節症の場合は
必ずしも原疾患が識別できないことも多い。
治療方針
①本症では退行性変化が
その病状進行の基盤であり、
当然のことながらその原因
および増悪因子を除く
ことが治療の基本となる。
②股関節の機能障害は、
日常生活動作を大きく損なう
こととなるため、
個々の患者に応じて一生を
通じた治療計画を立て、
長期的展望のうえで治療に
取り組むことが重要である。
目先の治療効果を追うことは敵に
慎むべきものである。
[保存療法
原則としてまず保存的治療を開始するが、
漫然と保存的治療を続け手術療法に
踏み切る時期を失することのないように、
病状の正確な把握と慎重な
経過の観察が必要である。
以下に筆者らが行っている
保存的治療を示す。
1 物理療法
(1)股関節に対する過大負荷の回避(免荷)
①減量栄養指導を行う。
②歩行補助具(杖)の使用:股関節に対する
負荷を10%程度軽減する効果がある。
○日常生活動作重いものを持って長く歩くなどは
(2)股関節周囲の腕力増強ならびに
股関節可動域の雑持体操、
自転車、水泳などを奨励し、
特に中殿期始力の増強に努める。
(3)消炎鎮痛療法
①牽引:急性期の疼痛緩和に効果的である。
②電気療法:マイクロ、低周波など。
⑤温熱療法:温泉、ホットバック、渦流浴など。
2 薬物療法
消炎鎮痛剤、筋弛緩剤など関節内注入
(ヒアルロン酸製剤ステロイド剤などがあるが、
手状的に難しく、感染の可能性などもあり、
安易に行うべきではない)。
手術療法
手術的治療の目的は、
股関節の構築上の欠陥を
検証もしくは補正することである。
そのためには1つの手術方法に
固執することなく、
可能なかぎり多くの種類の
股関節形成術に精通し,
最も良い関節の適合性と
荷重面積の増大が得られる
方法を症例に応じて選別して
いくことが重要である。
その際,手術術式を決定するうえでは,
股関節動態撮影
(外転,内転,外転外旋,
内転屈曲,90°屈曲 45 外転,など)が参考となる。
また,関節造影を行うことにより、
実際の軟骨面における術後の
関節適合性を確認しておくことも必要である。
病期が進行し,もはや股関節形成術での
対応が不可能な症例には,
本来の股関節を廃絶する方法ではあるが,
股関節固定術もしくは人工骨頭置換術,
人工関節置換術が適応となる。
以下に,筆者らが行っている手術術式とその目的,
および適用基準を示す。
1本来の股関節を生かした関節形成術
1)臼蓋形成術
(1) Spitzy 法:荷重面積の増大を目的とする手術。
手術侵襲が比較的少なく大腿骨内反骨切り術に
併用している。
大腿骨内反骨切り術により関節の
適合性が改善される症例で,
術後に荷重面積の不足を残すと
考えられる場合に適用している。
2)骨盤骨切り術
(1) Chiari法:荷重面積の増大を目的とする手術。
臼蓋形成不全の症例で,骨頭と
臼蓋との関係を変えることなく
荷重面積の増大が必要な場合に適用している。
(2)寛骨臼移動術:
荷重面積の増大および関節適合性
の改善を目的とする手術。
臼蓋形成不全により臼蓋に
よる骨頭被覆が不十分な症例で,
骨頭と臼蓋との関係を変えても
関節の適合性に悪化を来さないか,
もしくは関節の適合性に改善が
得られる場合に適用している。
前股関節症, 初期股関節症が
その主な適応である。
骨頭の扁平化などを伴う症例で,
骨頭と臼蓋との関係を変えることが
不適当と考えられる場合には,外反骨
切り術を併用することもある。
3) 大腿骨骨切り術
(1)内反骨切り術:関節適合性の
改善を目的とする手術。
頚体角および前捻角が正常よりも大きな症例で,
内反骨切り術もしくは減捻内反骨切り術を
行うことにより、関節適合性の改善が
得られる場合に適用している。
前股関節症, 初期股関節症が
その主な適応である。
(2)外反骨切り術:
関節適合性の改善を
目的とする手術。
骨頭の内下方に capital drop が
形成されているような症例で,
外反骨切り術もしくは
伸展外反骨切り術を行うことにより
関節の適合性に改善が得られる
可能性のある場合に適用している。
進行期股関節症,末期
股関節症がその主な適応である。
(3)大腿骨頭回転骨切り術(杉岡式):
関節適合性の改善を目的とする手術。
骨頭を前方もしくは後方に回転することにより
関節の適合性に改善が得られると
考えられる場合に適用している。
2 関節機能全廃に対する手術
(1)股関節固定術:関節の動きを止め,
骨性の癒合を得ることにより疼痛の
改善が得られ,かつ患肢に十分
な支持性が要求される症例に適用している。
片側の末期股関節症がその適応である。
股関節の動きを犠牲にすることとなるため,
ADL上では隣接関節(腰椎,膝など)に
よる代償が必要となる。
関節固定を行うことによる得失を
術前に十分検討する必要がある。
(2)人工骨頭置換術:末期股関節症で
関節症性変化が主に骨頭側に存在し,
かつ臼蓋形成不全が軽度の
場合に適用している。
(3)人工関節置換術:
末期股関節症で,関節症性変化が
臼蓋側にも及んでいる場合に適用している。
人工関節に関しては、満足な結果を
得ている症例も多く,また最近では材質
・形状にも多くの改良が行われてきている。
しかし、あくまでも人工の関節で
あるということを患者および医師が
十分認識していることが重要である。
現在筆者の施設では、セメントレスの
人工関節を中心に年齢、職業などによる
適応を慎重に検討したうえで適用している。
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