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成人の腰椎椎間板ヘルニア プロ編 Vol.3

プロ編 Vol.3
腰椎椎間板ヘルニア

腰椎ヘルニア OA 側面 X-P

成人の腰椎椎間板ヘルニア

[病因と発生頻度] 

腰椎椎間板ヘルニアは椎間板組織の軽度ないし中等度の変性による脆弱化を基盤とし,過度の負荷が加わって線維輪が亀裂し, これより髄核と線維輪の一部が内圧亢進によって後方へ押し出され, 神経組織を圧迫するものである。 レベルとしてはL4/5 が 50%を占め、次いで L5/S30%, 上記2椎間とL3/4 が 5%, 次に L2/3, L1/2 の順となる。

[発生年齢] 

30 歳代前半の男性が最も多く、次いで20歳代であるが, 40, 50歳代, 以後加齢とともに減少する。高齢では高度の変性による狭小化と骨肥厚,骨棘形成により脊柱管狭窄の因子を伴い,また, 椎間孔内外へのいわゆる外側型ヘルニアが増加することが多い。

[分類] 

脱出程度として, ヘルニア組織が線維輪外壁を破っていない突出,後縦靭帯の下に半分出ている靱帯下脱出, 靱帯を破って硬膜外に顔を出しているがその場所に残っている経靱帯脱出, ヘルニア片が元の場所から離れて移動した遊離型 がある。 脊柱管内外の位置により, 内側である中心性 , 傍中心性 孔外等の外側性ヘルニア  に分類される

L4/5 椎間板の後内では通常L 神経根が圧迫されるが,椎間孔外に出たヘルニアではL』 神経根が圧迫される。 したがって,内の遊離, およびL/S椎間板の外側ヘルニアで圧迫神経根はL4/5 レベルの脊柱管内とL5/Sの椎間孔
される。

当院の治療



 
 
[臨床症状] 

腰から殿部, 更に神経根支配領域に放射する種々の程度の痛みを生じる。 支配領域の筋力低下,運動麻痺、知覚鈍麻,中心部の高度な圧迫では自律神経障害として排尿機能障害が起こる。 なお, 罹患肢に冷感を訴える。他覚的には, 神経緊張徴候として下肢伸展挙上テストが陽性となり, L5, S1 神経根では下肢伸展挙上テスト が多く陽性となり, 高度な場合 20~30度挙上しても強い疼痛を誘発する。神経根では,腹臥位での大腿神経伸展テスト が陽性にでる。 これら 若年程出やすいが, 中年以後の女性では陰性になることが多いので注意を要する。 罹患神経支配領域の反射消失,筋力低下,陳旧例では筋萎縮, 振動覚低下, 皮膚温低下をみる。

[診断のポイント]

①自覚的, 他覚的症状が神経根支配領域と一致すること,多くは神経伸展テストが陽性となること, 臨床症状に現れた神経根の障害と画像で証明されたヘルニアの位置, 大きさ等が一致することが必要条件である。

② レベルとして, L, 神経根障害は椎管内 L3/4 ,椎間孔外は L4/5 により, Ls 根は椎管内ではL4/59椎間孔外では L/S により圧迫を受ける。

③障害神経根の確認は選択的神経根造影での再現性と,局麻剤によるブロック効果で,またそれは椎間板造影と  CT でなされるが,通常はミエログラフィーとミエログラフィー CTのみで診断はつく。

④ 脊柱管内に出たヘルニアは異物巨細胞等により処理され, 縮小していく運命にある。 しかし, 脊柱管が狭かったり圧迫が大きく脱神経を起こすと回復は困難となる。

[鑑別診断 ]

脊柱管狭窄症 (片側性または両側性で,上関節突起基部内縁の外側陥凹と椎間孔内で圧迫されるものが多く, 間欠跛行を呈する), 炎症 (椎間板炎, 椎体骨髄炎は強い腰痛と発熱、赤沈 CRP 上昇) 腫瘍ことに脊転移は中高齢者では多く、見逃しやすいので特に注意する必要がある。 単純X線正面像で椎弓根のふくろうの目が片方または両方欠けてしまう所見。MRI像での転移像, テクネシウムシンチ等で診断される。病性神経障害にも注意する。心因性のものが背景となる腰痛は少なくない。 痛みは神経と解剖学的に一致せず。姿勢や動作と関係なく、画像でヘルニアは証明されず障害その他のうつ病としての徴候。 あるいはヒステリー等が伺われる。 心理テストが必要。

保存療法

強い神経痛と共に排尿障害を来した場合や、明らかな下肢筋麻痺を来したものを除き保存的に治療するのが原則である。

安静

急性期には安静をとって神経根周囲炎の鎮静を待つ。患側を上にした側臥位で腰を曲げるのが最も楽であるが、 仰臥位で膝下に布団をまるめて入れ、 股関節を曲げる姿勢での牽引も脊柱管内圧を下げるのに良い。 慢性期には当院の指導のもとに歩行や軽労働は許可されるが、 前屈姿勢での作業禁止、長時間の腰掛業務で痛みを増すときはこれを避け、 短時間に区切り、間に歩行させる。 前屈位と腰掛け姿勢では椎間板内圧が高くなり, ヘルニアを押し出す可能性があるからである。

消炎剤


急性期には立ち上がりのよいインドール酢酸系 フニール酢酸系などを用い, 慢性期でなお安静時痛があるような例はプロピオン酸系 オキシカム系の中から長時間血中濃度が維持出来るものを適宜使用するか、痛みのある時の速効性のものを頓服する。 胃潰瘍等の副作用に注意する。 運動時のみ痛むものには用いないで様子をみる。マイクロウェーブ ホットパック等の温熱、薬浴等は筋スパズムの軽減に有効である。脊柱への負荷を軽減する目的で軟性の腰痛バンドをしばしば用いる。

腰痛体操

一般に腹筋。 殿筋を訓練し、腰椎前弯と骨盤前傾を能動的に軽減できるような訓練を行わせる。

日常生活上の注意と腰痛


前作業や、 体幹から離して子供を持ち上げるなどこの動作。椎間板内圧を上げるような作業を避ける慢性例では, 腰痛への取り組み方を指導する。
単なる腰痛は人の約半数が有していることを理解させ,ノイローゼにならないよう指導する。

その他

① 鍼治療など東洋医学的治療も有効と思われている。

② 保存的に治療された例に対する再発防止のアドバイスとしては,常々, 歩行, 腹筋, 腰部伸筋,下肢筋の訓練を行うとともに, 日常腰を急に捻ったり, 前屈姿勢での重労働を避けるよう指導する。

手術療法

1 適応
前述のように, 排尿障害など馬尾の神経障害を来している場合は絶対的適応となる。 一般に6週間程度保存的に治療しても依然として痛みが強く, 下肢筋力低下, ラセーグ徴候が30~60度以上あって軽減せず, 日常生活上支障を来しているものである。 基礎条件とし
て,画像上症状を説明できる責任病巣のヘルニアが確認されていること。

2 手術の実際
①通常, 片側の椎弓間開窓術で髄核鉗子を用いマイクロ外科的にヘルニアのみを摘出する。 外側陥凹などに脊柱管狭窄をもっている例ではこの部の除圧も加える。
②椎間孔外の外側ヘルニアは横突起の半分と椎弓の外縁,上関節突起外縁を切除して椎間板に達しヘルニアを取り出すか, 椎弓の半分を関節突起間部と棘突起中央で切り放し上関節突起の一部をカットして椎間板外側に達して取り出した後ヘルニアを摘出し椎弓を元に戻す 。
③固定術追加の適応は腰痛が強く, 椎間板造影により強い腰痛再現性があり, 不安定性が明らかで、 多くは重労働者の場合である。
④ スポーツや労働をするものに対して各種経皮ヘルニア摘出術が普及しつつある。 これは内圧を下げることにより神経への圧迫を軽減させる方法で, 適応を選べば侵襲は小さく良い方法と考える。
3 手術成績
遊離型や脱出型でヘルニア塊が大きいもの, 固定術を加えたものは成績がよい。
4 合併症
神経根の損傷, 癒着, ヘルニアの再発がある。 術中合併症として, 神経根と硬膜損傷のほか, 稀ではあるが腹部血管損傷によるショックや死亡があげられている。

後療法
侵襲の程度にもよるが, 通常術後1週間後に軟性コルセットをつけ歩行を開始する。 次第に歩行距離を増し, 膝の屈伸訓練, 階段昇降訓練, 前屈後屈訓練を行う。 社会復帰は4週間から3ヵ月かかり, 職業によってまちまちである。

高齢者の椎間板ヘルニア


[概念と頻度]

高齢者の定義は領域により異なり一定しないが, 椎間板ヘルニアは周知のごとく青壮年に圧倒的に多く,高齢者では稀であり, 変形性脊椎症に伴う脊柱管狭窄が合併することが多いこともあって,とかく椎間板ヘルニアの存在に注意が払われない傾向がある。 過去20年間の自験例でみても, 20代30代が約60%を占め, 60代以後は 1.9%にすぎない。 文献的に
も 0.7~5.8%と頻度が低い。 そのなかでも60代が9割を占めている。 罹患椎間は青壮年と同様にL4~5間が最も多く,次いでL5~S1 椎間となるが, L3~4椎間の頻度が青壮年に比してやや高い傾向にある。 高齢者におけるL3~4椎間板ヘルニアの多くは下位2椎間に狭小化と可動域制限を認め, これに伴うL3~4 椎間の代償性負荷増大に基づくものと推測される。

[ヘルニアの病理] 

ヘルニアをタイプ別でみると, 10代では 突出 が多くを占め, 20代から30代にかけ
ての青壮年期に 押し出し型の頻度が増加し, 40代から50代の中年になると 押し出し型が多くを占めるようになり, 60代以後には 隔離型 が多くなる。また, ヘルニア塊は若年者では髄核組織が主であるが,高齢者では変性断裂した線維輪が終板を伴って脱出している例がほとんどである。 なお,ここにいう高齢者の椎間板ヘルニアには, 脊柱管狭窄症の際にみられることの多い後方線維輪全体としての後方膨隆は含めていない。

[臨床症状]

一般に高齢者のヘルニアでは下肢症状の強い症例が青壮年のヘルニアより多く, また50代までに腰痛・下肢痛の既往症があった上に高齢に至って再燃して受診する例が多い。 したがって, 青壮年のヘルニアによくみられるように、 何らかの外力が働いて急性腰痛をもって発症するものは少なく, 大した誘因もなく発症してくる例が多い。
SLRのような 症状は青壮年に比して陽性例の頻度が低く, これは高齢者にみられる神経根の弛みと関連するものと思われる。 一方,筋力低下, 反射消失, 知覚障害といった神経脱落症状は高率に認められ, 脊髄造影で完全停止像を呈するような大きなヘルニアや脊柱管狭窄との合併例では,排尿障害なども伴うことがしばしばである。

[検査所見 ]

単純X線像上は多椎間にわたって変性所見が認められ、必ずしも責任椎間の変化が最大ではない。むしろ隣接下位あるいは上位椎間の骨性変化の方が目立つことが多い。脊髄造影は必ずしも必要とせず, 現在ではむしろMRIが優先して調べられる。 しかし脊柱管狭窄の併存例にあっては,脊髄造影による動態撮影が病態をよくとらえる上で有効である。 純粋なヘルニア例では,前
方より主として片側性に椎間板の後方突出がみられ,脊柱管狭窄症における後屈で増強する後方あるいは後側方よりの圧迫とは区別される。なお, 脊柱管狭窄に明らかな椎間板ヘルニアが併発している例も稀ではない。変形性脊椎症や脊柱管狭窄症の併存により多椎間神経根圧迫の認められる場合には, 臨床症状と突き合わせ、時には電気生理学的診断が障害神経根の同定のために必要となる。

[鑑別診断]

変形性脊椎症や脊柱管狭窄症のほかに,馬尾神経腫瘍や脊椎腫瘍などが挙げられる。外来において, 臨床症状と単純X線写真のみを中心に診断していた時代には、入院後に脊髄造影を行ってはじめて馬尾神経腫瘍が見つかったり,仙骨腫瘍を見落としたりする例が散見されたが, MRIの出現以来,このような誤診の恐れはほとんどなくなった。むしろ,無症状の間に脊椎や神経の腫瘍がMRIによって見つかることが増えている。

|治療方針|


① 青壮年のヘルニアと同様に, 消炎鎮痛剤を中心とした投薬, 持続骨盤牽引を中心とした安静療法, ステロイド剤と局麻剤を用いた硬膜外ブロックや神経根ブロックなどの保存療法が効果を示す。
②激痛を訴えたり, 神経脱落症状を認める例が多く,このような場合には手術療法の適応となる。
③ なお, 高齢者であることもあって,各種の成人病を合併している例も多く, 手術に際しては十分な術前検索を行い,術中および術後の注意深い管理が要求される。

手術療法

① ヘルニア腫瘤を摘出するだけのいわゆるLove法が主として行われる。 最近では, 腰部の筋肉をほとんど損傷することなくヘルニア腫瘤の摘出を行いうる鏡視下手術も良い方法と考える。
② 脊髄造影でいわゆる砂時計様狭窄像を呈して, ヘルニアによる前方からの硬膜圧迫だけでなく,後方あるいは後外側からの骨性圧迫の関与が認められるよう脊柱管狭窄症併存例では,両側を展開して外側陥凹横のくぼみの除圧を追加する方がよい。
③すべりを伴うような不安定性の著明な例は別として 固定術を必要とする例はほとんどなく, 術後も早期よりの体動と離床が可能である。また深部静脈血栓症を予防する意味で,術中術後の安静期間を通して両下肢に特殊な予防用ストッキングか弾力包帯を巻き,術後は早期より下肢の自動運動を行わせる。

[術後成績]

術前に激痛を訴えたり, 神経脱落症状の強い症例でも,腰痛・下肢痛といった自覚症状は非常によく改善し、患者の満足度は高い。 しかし, 神経脱落症状は術後に回復は示すものの,残存する例が多い。 それにも拘らず患者の満足度が高いのは,疼痛や不快なしびれ感などが取れるために, 日常生活が著しく改善することによると思われる。
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