頸椎症性神経根症 【プロ編】
「概念と病態]
頸椎症性神経根症は骨棘を
伴う頚椎症性変化により,
神経根が圧迫されて神経根の刺激症状,
欠落症状が生じた状態である。
なお,広義にとらえて,
椎間板ヘルニアによる神経根症を
本症に含めることがある。
神経根の圧迫部位は椎間腔の高さで,
脊柱管の前側方~椎間孔入口部~椎間孔内である。
圧迫を受ける神経根は腰部の
椎間孔内椎間板ヘルニアと同様に,
障害椎間板高位の椎間孔を
通過する神経根である。
例えばC5~6 椎間では
C: 神経根が圧迫され、
Coor 椎間では C7
神経根が圧迫される。
40~60歳に,誘因なく発症するものが多い。
障害椎間は Co~椎間が大半を占め,
ついでC5~6 椎間,C,
~T,椎間,Cars 椎間の順である。
[臨床症状]
脊柱症状と神経根症状に分け,
さらに神経根症状を刺激症状と
欠落症状に分けると理解しやすい。
ヘルニアによる神経根圧迫に
比べ骨棘による圧迫では,
潜行性に進行する傾向がある。
急性期に,
①頚部,後頭部,肩甲間部痛,
②時に狭心症と誤診されやすい前胸部痛
③片側上肢に放散性の疼痛がみられる。
上肢痛は障害神経根の dermatome に一致し,
頚椎の伸展で誘発,増強される。
経過とともに,重苦感,
手指のシビレに変わる。
上肢の脱力は,発症直後に
突然肩の挙上が不能となる
Ca~5 椎間例を除けば少ない。
[所見]
急性期に脊柱所見として、
頚椎を軽く前方に屈曲し,
上肢痛と反対の側に傾けた(側弯)姿勢をとる。
加えて,しばしば上肢を挙げ、
手を後頭部に当てがう姿勢をとる。
それにより,神経根が弛んで
痛みが楽になる。
神経根刺激の誘発試験である
Spurling の頚部圧迫テスト
neck compression test
(頚椎を軽く伸展かつ患側へ側屈した肢位で,
頭を体軸方向に圧迫する)が陽性となる。
陳旧例では,これらの所見が
軽微あるいは陰性となる。
神経根欠落所見は各障害神経根が
支配する筋, der-matome に関係した
腱反射の低下・消失、筋力低下,
筋萎縮,知覚障害がみられる。
知覚障害は通常知覚鈍麻
頚椎部の疾患であるが,
急性期に痛覚過敏となる例がある。
筋力低下は Cars 椎間例で三角筋が
Z~Pになる以外, G~G+で見落としやすい。
[神経学的高位診断]
上肢の神経根欠落症状を高位診断指標
(Murphey らによる)に照らし合わせて診断する。
ただし,診断指標が最大公約数的
なものであることに留意する
[画像診断〕
単純X線像で頚椎症性変化,
ことに障害神経根の通過する
椎間孔周辺の骨棘をとらえる。
他方,椎間板ヘルニアは傍正中~外側ヘルニアであり,
MRIで容易にとらえられ,
椎間板造影, CTD で確認する。
[鑑別診断]
手根管,肘部管,胸郭出口症候群などの
絞扼性神経障害が重要で,
他に下位運動ニューロン疾患,末梢神経炎を考慮する。
[治療方針
一般に本症は保存療法によく反応する。
また,多少神経欠落症状を残しても
日常生活に支障が少ないことより,
頚髄症と異なって手術療法の適応は限られる。
保存療法
頸椎の安静保持が必須である。
頸椎カラーが有効である。
鎮痛剤,抗炎症剤, マイナートランキライザー,
筋弛緩剤,疼痛自覚部位への湿布を処方し,
外来で経過を観察する。
疼痛の軽減が得られない例,
神経欠落症状の著明な例は入院治療を勧め,
頚椎の厳重な安静保持を指示する。
日中は頚椎軽度屈曲位で
Glisson 牽引をできるだけ長時間行わせ,
起座・歩行時は頚椎カラーを装着させる。
睡眠時は頚椎カラーの装着か,
頭部の砂裏固定を行わせる。
硬膜外あるいは選択的神経根ブロック
(ステロイド剤併用)も有効である。
疼痛の軽減が得られれば,
ホットパックなどの温熱療法,
頚椎の自動・抵抗運動による頚椎可動域の
正常化,上肢筋力の回復を図る。
手術療法
1 適応
長期間の保存療法にかかわらず効果が得られない,
あるいは得られても日常生活への復帰で症状が増悪,
再発する例,神経欠落症状が改善せず日常生活に支障
のある例が適応となる。
手術成績が安定した現在では、
若年者,重労働などの社会的要因を
考慮して,適応が拡大され、
早めに手術が行われることがある。
2 手術法の選択
歴史的には後方法が古く, Spurling の
椎間孔拡大術がある。
患側の椎弓~椎間関節移行部を開窓し,
神経根を圧迫するヘルニアを摘出する。
最近,顕微鏡を用いた microsurgy の
手技が導入されており,固定術が
不要であることから、見直されている。
ただし,骨棘少の摘出には適さない。
前方法は固定単独,除圧単独の
術式もあるが,神経根を圧迫する
Luschka 関節後方部と骨棘を摘出
(鉤状突起切除, uncectomy)する
前方除圧固定術が万全である。
術式の要点は、エアードリルを
用いて当該椎間板にまたがる
矩形の溝を正中部に掘削し,
後縦靭帯に至る。
その溝を患側の椎間孔に向けて拡大し,
骨棘を含めて鉤状突起切除を行う。
ヘルニア例では腫瘤を摘出し,
後縦靭帯を切除する。
除圧後は,腸骨片を移植して前方固定を行う
後療法疼痛が許せば頚椎カラーの装着下に,
いつ起床させてもよい。
前方固定例では通常1週間,仰臥位に臥床させる。
臥床時には頭~頚部の両側に砂嚢を当てがい、
過剰な頚椎の動きを抑える。
ギプスベッドは不要である。
椎カラーを3カ月間装着させる。
骨癒合に 3~6 カ月を要する。
「手術成績]
疼痛に対する手術効果は劇的である。
しかし、神経脱落症状に対しては
劣ったものとなりがちである。
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